2017年5月24日

獣医師は足りているのか

加計学園の獣医学部新設の話で疑問に感じたのが、獣医学部の新設がここ50年ほど無いと言うこと。50年というのはかなり長い年月なわけで、その間に新しい学部設立が無いのに、多分その頃から比べて桁違いに規模が膨れている家畜産業やペット産業に対して手当て出来ているのかという事。勿論、「学部新設」が無かっただけで、既存学部に新しい学科が追加されるとか募集人員を増やすとかで獣医師資格を持つ卒業生は増えているのだろうとは思うけれど。50年前からの資料は見つからなかったのですが、ここ20年位の推移のグラフがありました。二つのグラフを見てほぼ共通しているのは、

  1. 所謂ペット病院などの医師は増えている
  2. 公務員としての獣医師はほぼ横ばい
  3. 畜産業に関わる医師はほぼ横ばいから減少傾向
  4. 獣医師としての総数は横ばいから増加傾向
と言えるようです。もう一つ、地域別の獣医師の資料がここに掲載されているんですが、産業動物医の数は四国四県で109人、一県当たり25人前後で、どちらかというと少ない部類の地域と言えそうです。ただ、例えば北海道などは地域的に分散しているから、それなりの人数がいないと広範囲に支援出来ないだろうし、大阪府なんかは10人となっているけれど本当だろうか。隣接する兵庫県が多いから、地域的に大阪府の中でも兵庫県に近い場所で盛んなのかもしれない。

かなりざっくりと図表をみる限りでは、獣医師自体は増加しているようだけれど(昭和61年: 26千人→平成20年: 35千人)、産業医は半分近くに減っている。逆に小動物診察医は8000人位増えているので、増加分はここに吸収されていると思われます。またちょっと意外だったのは、大学教員などの人員が300人位から1100人以上に増えている。これは、大学などでバイオ関連とかの研究室や研究所を開設したのかなと言う気もしていますが、1000人近い人がそちらに流れているというのも大きな影響がありそうな気がします。

全体的に見ると、確かに獣医関連学部数は増えていなくても、多分定員増加などによって従事者は増えていると言えます。ただ、そのほとんどは所謂「ペット病院」などの一般的な獣医産業に出ていて、多分今必要とされている畜産関係への従事者は減っていることは明らか。畜産業自体、乳牛関係は厳しい状況で廃業する人も多いと聞いているし、全体の規模としては横ばいか減少傾向かなという気はするけれど、最近は鳥インフルエンザや口蹄疫等、昔よりも頻繁に聞くようになってきているから、少なくとも産業関連の獣医師は横ばいか増えて良いはず。そう言う意味で、今回問題になっている今治市の産業特区への獣医学部新設で、既存の獣医学部とは異なるアプローチが必要と指摘したことは正しいと思われますね。だから、今治市もバイオ研究などの新機軸を入れて申請をしているわけで、納得出来ます。

金糸雀らっぽくこれらの数字を見てみると、確かに全体の数字を見るだけなら既存の学部だけでも獣医師の数は増えているくらいだから足りているんだろうけど、畜産産業関係ではかなり減っているわけだから、この部分の補填は必要なはず。また、大学に残る人が増えているのも、畜産関連からバイオ等の最先端研究にシフトしていることも想像されるわけで、そう言う意味で先端研究は進んでも、既存の畜産業を安定的に支援する体制は大丈夫なのかという疑問も生まれてきます。

私が高校生の頃に、地元に浜松医科大学が新設されたんですが、それは全国的に医者の偏在を是正するために各地に医学部を増設していたからだったはず。同様に、短大からの改変とか、結構大学は増えています。ここ20年位の間には、私が現役の頃には聞いたことの無いような大学がどんどん出来ている。そんな中で、何故獣医学部が50年も新設されなかったのか、凄く不思議。多分獣医師も国家試験があるのだろうから、全体的な数は試験でスクリーニング出来るだろう。逆にライバルが増えると既存の学部卒業生の合格率が下がる、と言う不安からなのだろうか。加計学園が学部新設に至った疑惑(実際には私は無いと思っているけれど)よりも、50年間も特手の分野の新設学部が出来なかった、と言う事の方がよほど闇が深い気がするのだけれど。

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